38
Profile─梅村比丘
2012年,テキサス大学オースティン
校Ph.D.取 得。 専 門は 発 達 心 理 学。
論 文 は「Secure base script and
psychological dysfunction in
Japanese young adults in the 21st
century: Using the attachment script
assessment」(Development al
Psychology)など。
心理学研究の今について米国,
欧州,日本で感じたこと
広島大学大学院教育学研究科 助教
梅村比丘
(うめむら ともたか)
私 は,高 校 卒 業 後 に 渡 米 し,
ニューヨーク州立大学ストニー
ブルック校(State University of
New York at Stony Brook)で学
部を卒業し,テキサス大学オース
テ ィ ン 校(University of Texas
at Austin)で博士課程前期と後
期を修了しました。その後,ヨー
ロッパにあるチェコ共和国のマサ
リ ク 大 学(Masaryk University)
で4年間ポスドク研究員をしまし
た。今年度から,念願かない日本
で職を得ることができ,広島大学
で助教をしています。
私 は こ れ ま で,Bowlbyの ア
タッチメント理論を軸に,乳幼児
期に築いた親子関係から児童期
に構築する友人関係,青年期・成
人期の恋人との関係性まで,幅広
い発達段階における重要な他者
との関係性の発達についての包
括的な理解を目指して研究を進
めてきました。現在,広島大学で
は,アイデンティティ研究者とし
て世界的にご活躍されている杉
村和美先生と共に,人間の生涯発
達についてより厳密に理解でき
るようDynamic Systems Theory
(DST)を用いた研究を進めてい
ます。また教育面では,次世代へ
のアタッチメント研究の継承や,
世界で活躍できる心理学研究者の
人材育成に携わることを目標に
日々精進しています。
今回,「意味のある研究を行い,
それを英語で発表すること」の難
しさや大切さについて私が海外で
感じたことを報告したいと思いま
す。
行き過ぎた英語化への懸念
私はこれまで,アメリカ・ヨー
ロッパ・日本の3 ヵ国で心理学研
究に携わることができたわけです
が,世界の心理学の状況について
私の印象は,奇妙なまでの「英語
化」です。母国語で心理学を研究
するということの価値が下がり,英
語での研究発表の価値が必要以上
に高騰している気がしました。ま
さに,「英語論文の発表数」が世
界中でインフレ状態でした。アメ
リカで学位をとった私も研究者と
しての生き残りをかけて英語論文
を執筆してきましたが,このインフ
レ現象には甚だ疑問を感じていま
した。私の印象では,日本語など
の英語から遠い言語を母語として
いる研究者は,この競争に苦戦を
強いられるだろうと感じました。
国際化への対応について
上記のように,私は,現在の英
語論文発表競争には懐疑的であり
ますが,この問題と似て非なるも
のとして,もっと基礎的な日本人
の英語力の壁によく海外で遭遇し
ました。恥ずかしながら,私は,留
学して数年は全く英語が通じませ
んでした。国際学会で,よく苦戦
している日本の研究者をお見掛け
することがあり,自分も含めて日
本人の英語コミュニケーションの
大きな壁を感じる機会が多かった
です。また,英語の論文執筆にお
いては,海外の研究者も求めてい
る日本からの研究結果を,英語論
文が書けないために発表できてい
ない状況にも遭遇しました。せっ
かくデータがあるのに,科学的な
エビデンスの積み重ねができずに
いるもどかしさがありました。
日本の心理研究の功績
このような話をすると,日本の
心理学研究の現状を危惧している
だけのようですが,英語論文の大
量生産競争と日本人の英語力の壁
という問題はそもそも心理学研究
の中心ではないと私は考えます。
いくら英語論文が多くても,その
研究自体の価値がなければなんの
意味もありません。次の世代も必
要とする重要な研究を行うこと
が,心理学研究における最も大切
な点の一つだと私は考えます。こ
れまで日本の心理学研究が,欧米
主導で行われてきた心理学研究の
大切なエビデンス・カウンターエ
ビデンスとして,歴史的に重要な
役割を果たしてきたという印象
を,海外の研究者が持っていると
感じました。
以上,私の海外での経験は,私
自身に「意味のある研究を行い,
それを英語で発表すること」を目
指すべきだと教えてくれたと思い
ます。この話が,皆様のご参考に
もなれば幸いです。